2017年 03月 22日 ( 1 )
ゴールは「生き抜くこと」。
〈スタートライン〉 “開かれた対話”で寄り添う精神科医・森川すいめいさん
ゴールは「生き抜くこと」。
「答え」は、すぐに見つからなくていい。

 今月は自殺対策強化月間として、さまざまな啓発活動が行われている。
人が生きやすい環境は、どうすればつくることができるのか。
そのヒントを、精神科医の森川すいめいさん(みどりの杜クリニック)に聞いた。

――“とりまく環境とうまく対話ができなくなったときに、人は病む”と言う森川さん。
今、自身のクリニックで対話によるケアを実践する。
  私のクリニックでは、外来の患者さん以外に、その人がそばにいてほしい人や行政の支援者も交えて、60分ほど対話をすることがよくあります。
 「こちらへ来ようと思ってくださったきっかけや思いを話してもらえますか?」
 患者さんには、まず、そう聞きます。本人の言葉を大切にしながら、他の人の言葉をそこに重ねてもらうようにして、対話する時間をつくっていきます。すると誰かが話し始め、会話が膨らんでいきます。
 患者さんにとっては、自分で語った言葉を自分で聞くことや自分に関わる話を聞いている間が、自分の感情を大事にする時間になっていきます。また、「自分の味方がこんなにいるんだ」と感じて気分が楽になることもあります。
 ある幻覚で苦しんでいた人は症状のない時間があることが分かりました。
それは、どんな時なのかを聞くと、みんなと笑っている時なんですね。
そこから「じゃあ、楽しい時間をつくろう」と回復への道が開けていったことがありました。
  
 ――森川さんは社会人になってから医療の道を志した。
  
 鍼灸師をしていた頃、仕事や「ホームレス」状態にある人の支援活動で病気の方々に出会いました。
力になりたいという気持ちや、幼い頃からの「戦争のない社会に」という思いが重なり、もっと勉強しようと、26歳で大学の医学部に入りました。
 その後、出会った2人の精神科医の方の、誰とでも優しく会話をする姿に胸を打たれ精神医療に携わることになりました。
 ですが、精神科医になってからは勤務先の病院で1時間に10人の診察が目安と言われ、病状を診て薬を出すだけ。これで患者さんの心に寄り添えるのかと疑問を抱きました。その頃に出合ったのが、対話によるケアです。
  
 ――それはフィンランドで生まれた「オープンダイアローグ(開かれた対話)」と呼ばれるものだった。
  
 これは診断や処方の前に本人と本人の困り事に関係する人たち、そして専門家を交えて話をし、その人のネットワークにある生きにくさの理由を見つけていく対話の形です。
今の精神医療では、薬以外の治療方法が乏しい現状がありますが、オープンダイアローグの場合、8割近くの人が抗精神病薬なしに回復したデータもあり、注目されつつあります。
 以前、自殺の少ない全国五つの地域を訪ねたことがありますが、どこにもこうしたシンプルな“人を癒やす方法”が根付いていたことを思い出します。
  
 ――当時の所感をまとめ、森川さんは昨年、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社)を出版した。
  
 なぜ自殺が少ないのか――。一つは、皆さんが「自分は自分、人は人」としっかり分けて考えているように感じます。
 安易に人に同調はせず、相手を変えようともしません〈書名の“ひとの話をきかない”はここから取っている〉。
でも、困っている人には、すごく関わろうとされます。
自分を大事にすることを知っているからこそ、人のことも自分事のように大切にされるんですね。
 二つ目は、どの地域にも、しっかりした助け合う仕組みがあるということです。
“問題が起こることが当たり前”という前提で“チーム”が作られているのです。
 徳島県の旧海部町(現在の海陽町の一部)には、各世代で構成される相互扶助組織の「朋輩組」がありました。
冠婚葬祭の手伝いだけでなく、仲間のために悩みを聞いたり、トラブルの時に集まったりもします。
 特に組への出入りは自由、規則が緩い。だからこそ何かの時には、すぐに動けます。
ですが“問題が起こらないようにするため”の組織であれば、どうしてもルールに縛られ、問題が起きれば悪者探しになる。
組織の機動力は、悪くなっていたりします。
  
 ――こうした取り組みを、都市部や他の地域で実行することは難しいかもしれないが、そこには大きなヒントがある。
  
 五つの地域における“個”や“社会”の特徴には、日頃から、いろんな形でなされている「対話」が背景にあります。
どの地域でも、あいさつや雑談といったレベルで人々がよく話し合っていました。
 相手の言葉を聞いて自分の思いを伝え、それにまた相手が反応する――日常の対話の積み重ねは、心の重荷を軽くするだけでなく、工夫して困難を乗り越えていく人々の力にもなっていると感じました。
  
 ――オープンダイアローグでは、患者が困っていることや望んでいるものが分かれば、専門家が解決案をいくつも提示していく。
  
 こんなことがありました。
どう生きるか悩んでいた若い患者さんとの会話で、さまざまな提案が出て「電車で旅に出る」といったことが選ばれました。
 結局、彼女は旅に行きませんでしたが、電車の旅を調べていくうちに農業に興味を持つようになり、それを始めたんです。
 対話をきっかけに自分で行動を始めた彼女は、自分に合う世界があることを知り、元気になりました。
「すぐに答えに飛びつかなくていい」――そういう生き方が大事だと思います。
  
 ――その思いは若者への森川さんの期待でもある。
  
 今の若い人は、他者による“評価の嵐の中にいる”と感じます。
失敗をしないようにルールに縛られ、自分を探せないでいる。
それは、最短でゴールに着くために、「答えも方法も一つ」のように教える、日本の教育の影響かもしれません。
 それに比べ、日本よりも幸福度がずっと高いフィンランドでは、ゴールは同じだけど「やり方は自分で探しなさい」と、試行錯誤を大事にしています。
 大人たちは、たくさんの事例を見せ、子どもたちは自分なりのやり方を選んでゴールを目指します。
その中で自分を理解し、強みを知っていきます。
 日本の私たちも「生きること」「生き抜くこと」というゴールに目を向けて、挑戦と失敗を繰り返していけば、自分が見えてくると思うのです。今は、「こうしたほうがいい」ということに縛られすぎなのではないでしょうか。
 幸せになることに、もっと素直になったり、悩むことを大切にしたり。
そして、好きな人や嫌いな人など、いろんな人々との対話の中で、自分の感情を大切にできる強さや自分らしさを育んでいけばいいのかなと。


 もりかわ・すいめい 1973年、東京生まれ。精神科医。鍼灸師。医療法人社団翠会みどりの杜クリニック院長。
20年以上、「ホームレス」の支援に携わり、現在、NPO法人「TENOHASHI」理事。
NPO法人「世界の医療団」東京プロジェクト代表医師としても活躍。
著書に『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社)、『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)がある。

【編集】忠津秀伸 
(2017年3月18日 聖教新聞)より

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by tomotiyoo | 2017-03-22 00:00 | Comments(3)
  

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